on your Birthday.............
船は海流も緩い海域を、風も少ない、波の穏やかな水面にその影を落として、ゆったりと進んでいた。
サンジはひとり、舳先のメリーに寄り添って、その穏やかな航路の中、煙草の煙を後方へと流していた。
周囲には誰もいない。それどころか、どの甲板にも人影はなく、その代わりに、後ろの船室からは、ぎゅうぎゅうに人の詰まった気配が漂ってくる。
ひと際長く煙を吐いて、サンジはその気配に思いを馳せた。
キッチン、食堂、操舵を兼ねたその船室のからは、賑やかな気配が流れてくるばかりだった。
朝食の終わった直後から、彼は他のクルーたちによって、そこから追い出された。
自分の誕生日に自分の作ったものじゃ味気ないでしょう。
ナミに言われて、御もっともですと反射的に答え、鼻先でドアを閉められた。
太陽はもう直ぐ南中を指す時刻だった。
ふと、船の正面に、他の船の影が立った。
煙草を口の端に引っ掛けたままに見つめる中、その影はどんどんと大きくなり、物凄いスピードで近寄ったかと思うと、不意に減速して自分よりも一回り小さいメGM号に、その側面を寄せてきた。
マストには黒地に白抜きの髑髏のマーク。
見たこともないマークではあったが、新参者のこちらがとやかく言える事ではない。
振り向いたサンジの目の前で、渡り板が渡されて、向こうの船から鬨の声が上がる。
あ・・・。
見ている間に、決して多いとはいえないものの、海の荒くれ男達が蛮刀を振りかざしてGM号へと渡り入ろうと踏み出してきた。
軽く舌打ちをして、サンジは煙草を落として靴底で揉み消すと、そのまま、勢いをつけて甲板の板を蹴った。
レイディー、そこに並べてある包丁には気をつけて。
先頭の三人を、一蹴りで海面へと叩き降ろしながら、胸の中で心配事を反芻する。
昨日研いだばかりなので、想像以上に切れるかと思います。
渡り板の後方から、跳び入ってきたふたりを、後ろ蹴りに甲板に静める。
お菓子に使うなら、白い玉子の方が良いかと思います。
渡り板を使わずに、直接船縁へ飛び降りて来たひとりを、軽く蹴り上げて自分たちの船に戻してやった。
赤い玉子はコクがありますが、繊細な味のお菓子には不向きかと思われます。
雄たけびを上げて駆け下りて来るひとりを、靴底の下に踏み倒す。
フレッシュクリームはそろそろ傷みが出てきました。
隙を突いて背後に廻ろうとした輩を、水平に横に蹴り飛ばす。
ケーキにではなく、少し火を通す料理にお使いください。
懲りずに渡り板から駆け込もうとする新たな一団を、再び一蹴りで海面へと送り込む。
肉は左上のものからお使いください。
眼を上げると、首領らしき巨躯が立ちはだかっていた。
その肉が一番、熟成具合が丁度良いかと思います。
巨躯が蛮刀を抜きかかったが、わざわざそれを待つ理由も無いので、跳躍ひとつで踵を脳天に送り込んだ。
野菜とフルーツは、出来ましたら控え目に。
甲板に転がっている余所者を、蹴り飛ばして自分たちの船に戻してやる。
次の港までに切れてしまうといけませんので。
最後に渡り板を蹴りこんでやり、何事も無かったかのように再び煙草をくわえて火を着けた。
風は穏やかに、口元から吐く煙を流していく。
さっき寄ってきた船影は、程なく後方へと消えて行った。
また、舳先の甲板へと移動しながら、そっと船窓から中を覗き込んだ。
彼を除く全員が詰まった船室では、賑やかな料理風景画展開されていた。
頭の隅で、微かに血の気の引くような感覚を憶えたが、取り敢えずは無視することにした。
祝ってくれると言うのだ。
知らず知らずに顔が笑みを作る。
風は穏やかで、波も低く、海流はゆったりと流れて、船はゆるやかに進んでいく。
カモメが一羽、メリーの首の上を過ぎった。
何処か近くに、島があるのだろうか。
end
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