不動のおっさん 救援ペーパー(笑)  2006/06/18」


 もう、剣二におっさんと呼ばれなくなって、哀しいし、つまらない。
 これを書いている今、関東は23話で、ゴウリュウさんがぁぁぁぁ!!!なので、 元気が、ほしい。(涙)

 と言うことで、ちょっとだけ、鍵のおっさんを書いてみました。 書けるかどうか、試してみました。 (笑)

 素直に萌え面白かったので、18話その直後ってことでよろしくです。

 それにしても、スーツの中の人の秋山さん、かっこいいなぁ〜  いいなぁ〜 (何が? 笑)



「はい、 どうぞ」
 抑揚の無いそんな言葉と共に、鈴がドカリと医療キットの箱をテーブルに置いた。それから、礼を言おうと視線を向けた不動と目が合うと、小柄な見上げるその位置から、顎で奥を指し示してみせた。
 びしょ濡れの上に怪我までしている風体では、先ずやることは着替えと治療と分かっているだけに、ここでは脱ぐな、奥の部屋へ行けと言うところだろう。宿直室は上に行かなければ無いが、地下には瀬戸山が寝泊りしている予備室が、通称魔法部屋の奥にある。
 落ちた川から自力で這い上がったところを町内の奥様に助けられ、メロドラマごっこに付き合った後、夕方の買い物客でにぎわう町を、濡れねずみ状態で商店街を歩いて注目を集めまくって帰ってきた不動は、上のロッカーに常備してある替えのスーツを掴んで、急いでここへとやってきたのだ。白波の足止めにがんばったのだから、もう少し優しくされても良いんじゃないかと胸の隅で思ったが、この場で口に出すほどの勇気は持ち合わせていない。
 勇気とか覇気とかそんなものは、今日はもう売り切れだった。
「はい行く、ほら行く! さっさと奥へ行く! こんなところで脱ぎだしたら、裸の写真売り捌くわよ」
 びしりと伸ばされた鈴の腕の先で、綺麗に整えられた爪を乗せた指が、一段高い魔法部屋を示していた。
 行かなければいけないだろうか・・・。
 不動はちょっとだけ、鈴に訴えてみることにした。
「あそこは、瀬戸山の部屋で・・・」
 いろいろなわけの解らない魔法グッズが積み重なっていて、会議用の椅子を連ねた即席ベッドに寝袋とカップラーメンの空が散乱していて、とても人の入れるところじゃないから・・・。
「なに言ってんのよ! 不動さんのアパートと、どれだけ違うっていうの?! 忘年会の後でみんなを配って歩いたときも、どの部屋もみんな五十歩百歩、どんぐりの背比べ、汚いと散らかっているが同居してて、本当に、眩暈がするかと思ったんですから!」 
 びしりと奥を示す指先は微動だにせず、もう片方の手はきっちりと腰に当てられていて、隙も無い。
 以前、司令官の天地に頼まれて、珍しく外出している瀬戸山の代わりに探し物をしに奥の部屋に入ったとき、ゴウリュウガンが入るなり突然モバイルモードを解いて銃になり、「コノ部屋ニハ、邪気ガ満チテイマス。キケン。キケン」と警戒の声を上げて、挙句は滞在時間が僅か5分の間に、邪に染められるが確率80パーセントにまで上げられてしまい、流石に気味が悪くなって逃げるようにして出てきた記憶があるのだ。
 何とかして、あそこではなくて、着替えと傷の手当てがしたい。
「あ、そうだった」
 不意に、鈴が気を緩めて声を上げた。
「奥の部屋、御厨博士が来るからって、片付けたんだったわ。さっきゴミも捨てたんだけど、瀬戸山くんが一緒に張り付いて泣いていて面倒くさいから、まとめて捨てたんだっけ。そしたら御厨博士まで一緒に走って追いかけて行っちゃって。・・・うん、だからきれいになってるわよ。奥の部屋」
 きれいに、みんな捨てたわよ。
 鈴の笑顔が恐ろしい。
 恐らくは、瀬戸山や御厨博士を筆頭にする魔法オタク全員が、命に代えても惜しくないと思っているような、邪気溢れる様々なものだったに違いないのに、それを、いとも簡単に捨てるとは・・・。
「と言うことなので・・・。はい行く、ほら行く、さっさと行く!」
 鈴の態度には迷いも無く容赦も無く、瀬戸山とは別の邪気だけが見えるような気さえする。
 いや、しかし、いくら片付いたとは言え、あの部屋には・・・。踏み切れずにいたら、業を煮やした鈴にぐいぐいと背中を押されて、不動は結局は、奥の部屋へ放り込まれてしまった。
 魔法オタクのアヤシイ物はきれいさっぱりと無くなっており、代わりに普通の会議室が現れていた。
 剣二のオプションつきで。
「あっ! おい鈴! 何で不動さんには救急箱渡して、俺にはくれないんだよ」
 普通の会議室になっても、やはり何かがおかしい。
 渡してもらう前に、自分で探せ、剣二・・・。
 胸の中で呟いて、不動は黙って救急箱を差し出した。
「手当テガ遅レマス」
 ゴウリュウガンの忠告は有り難かったが、「何でだよ」「どうしてだよ」「ずりーよ」と繰り返している奴を、先に黙らせておきたかった。
「体調ガ心配デス。早ク着替エヲ」
 促す相棒の言葉に、胸が熱くなる。心配してくれるのは、お前だけだ!
 会議室のテーブルの上に替えのスーツとシャツを置いて、濡れた上着をやっと脱ぐ。
「なに! 不動さん、着替えんの!?ここで着替えんの?!」
 やけに楽しそうな剣二の声に、瞬間的に固まった。
 邪気がある。邪気が!
 いくらキレイになっても、この部屋にはやはり、邪気が渦巻いているに違いないと、不動は確信を持って思った。