ブロックサイン/ステファニーR
「サポーターの心構えねぇ…」
天井を見つめて、ベテランサポーターはすうと息を吸って、ゆっくり吐き出した。
「そうだな…ああ、ザンキくんさ、テトリス得意?」
ソリティアでもいいけどね。そう言って、さもおかしそうに、彼は笑った。
戸田山の……トドロキのサポーターになるとザンキが決めたのは、本当に土壇場のことで、サポーターになる為の手続きはおろか、事前準備の何一つも出来ては居なかった。
いくら元鬼とは言え、そんな状態で、いきなり鬼のサポーターになれると思ったら大間違いである。
当の本人もそれは充分に感じていたらしく、轟鬼のオフに入ると同時に、彼のもとへとやって来た。
関東支部のベテランサポーター石割の処へである。
「鬼ってのは、脳みそじゃなくて、筋肉で物考えてるからな、まずはそれを………っと、元鬼に言うことじゃなかったか?」
さして悪びれるでもなくニヤリと笑って、彼は真新しい煙草の箱を指先で弾く。
「いえ……ウチのは……そういう表現がまさしく似合いますから……」
ザンキは苦笑して、石割の台詞を肯定する。
その瞬間、石割が微妙な顔をしたのには気付かない振りをしておく。
別に『ウチの』と言う表現に他意は無い。弟子の頃から使っていた表現である。自然口をついて出たからといって、今さらそこに何があると言うのか。
くるくると、手の中の煙草をもてあそぶので、吸いたいのかとふと思う。
だがザンキは、いつも煙草の匂いをさせてはいるものの、このサポーターが煙草を吸っている姿を見たことは無かった。
良ければ……と、手近な灰皿を押しやると、頷いて受け取りはしたものの、吸う素振りはない。しばらくそのまま話は続いたが、一度気になると、どうにも視線がついつい手元にいってしまう。
「………あの…」
「うん?」
「吸わないんですか?」
どうぞと言う意味で言ったのだが、微妙な顔で見つめ返された。
「………ザンキ君さ、一応、引退ということだけど、今後鬼になるつもりは?」
突然問われて、面食らう。
その問いの真意が掴めなかった。
「自分は…引退をしましたので、再び鬼になるつもりは毛頭ありませんが………」
「ならいい。ああ、今聞いたことは、忘れるように。それができなきゃそれでもいいが、他の鬼の連中には言わないように。特にサバキ」
そう念を押してから、ようやく手の中のパッケージをあけた彼は、美味しそうに最初の一本を吸い始めた。
「………あ〜生き返る」
たまらない…といったその口調に、思わず笑いが漏れた。
何もここまで我慢しなくとも良かったろうにと思ったのである。
「…なんだ? 人の煙草吸う姿はそんなに面白いか?」
「いえ……そういう姿は初めてお見かけしたものですから」
「ったりめーだ! 鬼の前で煙草なんつー不健康なもん吸えるか」
ああ…と、何かがぴたりと胸に収まる。
石割と言うサポーターは、こういう人物なのだと。
きっと、シフト中も決して吸わないのだろうとか、その気遣いに、きっとサバキは気付いているのだろうとか。
こんなサポーターになりたいものだと、思った。
「石割さんの考える、サポーターの心構えは何ですか?」
ふと思いついて口にしてみる。彼の想いを聞いてみたかった。
「サポーターの心構えねぇ…」
天井を見つめて、ベテランサポーターはすうと煙を吸って、ゆっくり吐き出した。
「そうだな…ああ、ザンキくんさ、テトリス得意?」
ソリティアでもいいけどね。そう言って、さもおかしそうに、彼は笑った。
「間違ってもRPGやらシミュレーションものはやめておいたほうがいい。のめっちまうからな」
「…はぁ……」
自分が聞いたのは、サポーターとしての心構えだったはずだが、なにげに始まってしまったゲームの講釈に、ザンキは頷くことしか出来なかった。
「………ま、ゲームじゃなくてもな……サポーターは鬼が出ちまったら、帰り待つしかねぇからな……」
フィルターぎりぎりまで吸った煙草を灰皿に押し付けながら、ぼやくように呟いて、新しい煙草に火をつける。
まったく、この人は………
「つまり…心配はしてもいいけれど、しすぎるなと?」
ザンキがそう言って石割を伺うと、何やら渋い顔をされてしまった。
「可愛くないねー蔵王丸ちゃんは。お兄さんがケムに巻いてること的確に理解してんじゃねえよ」
そううそぶく石割は、不機嫌そうな声を出しながらも、満足そうに見えた。
こんなサポーターになりたいものだと、思った。
ザンキさんはこの後、ニンテンドーDSを購入
だったら楽しいなと………