秋の夜



こんばんは。お久しぶりですねー。
サバキは受けた電話の向こうへ、既知の相手と知れる気安さで話しかける。
窓の外はもう日が暮れていて、秋の夜風が荒れた庭の雑草を揺らしていた。
月が、東の空に低く、住宅街の家々の屋根に圧し掛かるようにして在るのが見える。
ええ?そうですか?
いかにも、心外というような口調ではあるが、声は笑っていて、横顔も笑っている。
窓を閉めた部屋の中は温かく、冷たくなりはじめた夜風は届かない。
うーん。そんな感じでしょうか・・・
考えるような口調は、声音と表情とリンクしている。
部屋の中央にあるテーブルの上には、粗方食べ終わった夕食。
そうですかねえ。やっぱり。
何処か確信にたどり着いた声音は、溜息をふくんでいて、聞いていた石割も、溜息を吐く。
オフは、返上。
多分、これは、出動要請がかかる。
食卓の上の空いた皿を片付けて、残りを夜食の為に取り分けて、黙って準備に入る。
夕食を食べて行けと言うサバキに甘えて留まっていたが、帰れば良かったかもとは、少ししか思わない。
俺のところよりも、たちばなに連絡してくださいよ。
困ったような口調でも、迷惑がってはいないのが、本心。
バケガニですかねぇ。
がりがりと頭を掻くのは、ちょっと面倒だと思っているから。
今日はもう、ビールを飲んでしまっていて、食べながら既に上機嫌だった
分かりました。俺からたちばなに連絡します。
言って、サバキは軽く挨拶をして、受話器を置いた。
「館山の鈴村さんだ」
振り返って言われて、眼差しで先を促す。
「ひなかちゃんのデーターでも、要注意になってたしなぁ」
そうだったなと、頷く。
「釣り人がひとり、行方不明になっている」
確定。
「今夜は満月だから・・・」
「こちらも夜中に行動できますね」
返せば、嫌そうに笑われた。
「あなたは飲んでしまっていますから、僕が運転します。事務局への連絡は、あなたがしてください」
「準備は?」
「できています」
壁に立てかけた閻魔を示せば、また嫌そうに笑われた。
満月の、秋の夜。
満ち潮の波音の中、魔化魍を追って、
鬼が、走る。






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